適応期

赴任後6カ月ほど~

◆会話ではない、「対話」を作る◆

 

ある小売業のブランドマネージャーを務める方がコーチを受けていました。駐在してから1年間、なかなか部下との信頼関係が築けない状態が続き、チームはそれぞれが孤軍奮闘している状態が続いていました。

彼の部下の声を拾うため、コーチングの中で、匿名のアンケートを実施することにしました。はじめて実施したときは、多くの部下が「N/A」(回答できない、無回答などの意味)とだけ記載していました。建設的な意見どころか、不満さえも伝えてもらえない状態だったのです。

それでも、彼は一人ひとりと時間をとって、「仕事について、話そう」と対話を持つことをあきらめず続けられました。

すると3ヵ月後にもう一度実施したアンケートには、こんな回答が出てきました。

「あなたは私の話を聞いているようで、自分の言いたいことを言っているだけです」初めて、意見が書かれるようになりました。

「不満がある」ということは、「期待がある」ということの裏返しです。部下から、不満がでてきたということ、これは、このマネージャーにとっては大きな前進でした。

 

半年後、その期間の取り組みを振り返って、彼はこんなことをおっしゃいました。

 

「ずっと、認めたくなかったことがあるんです。自分は、ずっと日本本社のやり方、にこだわっていました。そして、そのやり方は、現地のスタッフには受け入れられていなかった。現地のビジネス慣習には合っていなかったからです。そのことには、実は内心気づいていたのですが、認めたくなかったんです。お恥ずかしい話、それを認めてしまったら、自分の立場はどうなってしまうのだろう、とぼんやりとした不安をもっていたんです。今は、そのやり方ではうまくいかない、と認められるようになりました」

『今までのやり方では、うまくいかないのだ』という前提に立ってみると、彼女たちの言っていることが、よく聞こえるようになったのです。今までも、彼女たちは意見を言ってくれていたし、私も聞いているつもりだったけど、今までは、聞きながらも、ずっと自分の中にある『正しい答え』と照らし合わせて、彼女たちの間違いを修正しようとしていたのだと思います」

 

おそらく、コーチングを開始した頃の彼は、周囲と「コミュニケーション」をとってはいましたが、「対話」ではなかったのでしょう。そこにお互いの違いを認め、すりあわせていく

「再解釈」は存在していなかったのです。そして、それは彼の中にあった「漠然とした不安」が障害となっていたのでした。

「グローバルリーダーになる」プロセスとは、自分の「当たり前」を否定されることの連続であり、自分自身の世界観を変えていく「トランジション」のプロセスです。

「自分との対話」を通じて、現状を捉えなおす再解釈をし、「周囲との対話」でお互いの違いを表面化させ、すり合わせる過程でまた再解釈を生み出すことによって、「トランジション」は大きく前進していきます。